2007年2月 8日 (木)

鳥(3)


                3


     その日の午後の事だった。私が、そうして、
    その夢の事を考えていると、不意に、妻が、
    私に、「どうしたの?」と、尋ねたのだった。
    妻は、「何か考えているの?」と聞きながら、
    私の前で紅茶を入れ、私の顔を見つめた。
     私は、微笑んだ。そして、そう尋ねた妻に
    「夢を見たのさ。」と答えた。
    「夢?」と妻は聞き返した。
     私は、うなずいた。そして、今朝見たその
    遠い日の夢の事を妻に語った。すると、妻は、
    私の夢の話を聞き、何も言おうとしなく成っ
    たのだった。
     私は、妻のその沈黙の理由が分からなかっ
    た。

     妻は、私を見つめた。そして、何も言はな
    いまま、私の手を取った。そして、その手を
    ゆっくりと自分の前に運ぶと、自分の腹の上
    に置いた。
    「赤ちゃんが出来たのよ。」と妻は、言った。
    私は、何も言はなかった。そして、何も言は
    ないまま、妻の目を見た。
     部屋の中は、静まり返って居た。その静け
    さの中で、私は、小鳥が、自分のその手に、
    帰って来た事を知ったのだった。


 
             (終)

 平成19年2月8日(木)

    西岡昌紀 (にしおかまさのり)


---------------------------

この小説は、フィクションであり、実在する人物、
出来事とは関係有りません。(文中の「私」と
作者は全く無関係です。)
批評の為の引用、転載は自由ですが、その場合は、
仮名使ひを含めた一切の変更を、理由を問はず、
禁じます。批評の目的以外の引用、転載は固く
禁じます。

             西岡昌紀(作者)

http://blogs.yahoo.co.jp/nishiokamasanori/

鳥(2)

                 2

                  
  
     あの鳥は、何処に行ったのだろうか?・・・
    その不思議な夢は、私の心を遠い昔へと引き
    戻した。
     夢から醒めた私は、あの遠い日の出来事を、
    まるで、今朝の事の様に感じ、あの白い鳥の
    行方を思った。
     もちろん、あの鳥は、もうこの世に居ないに
    違い無かった。そして、あの日、私を慰めた母
    も、もうこの世の人ではなかった。だから、そ
    の夢の光景は、最早、この世に存在しない光景
    なのである。そんな鳥や母が、私の心の中に、
    あの様にありありと浮かんだ事に、私は、驚か
    されずには居られなかった。

     私には、その夢が、何かの知らせの様に思は
    れた。その朝、遠い世界から、私に送られた、
    何かの知らせの様に思われたのである。
 
     私は、窓を開け、その朝の空を見上げた。そ
    の日の空は、あの鳥が飛び去った日と同じ様に、
    青く、何処までも晴れ渡ってゐた。私は、その
    晴れた空を見上げながら、あの日、母が私に言
    った言葉を思い出した。--母は、あの日、私
    に、あの小鳥が、いつの日か私のもとに戻って
    来る、と言ったのである。--私は、母のその
    言葉を思い出し、母は、あの日、どうしてあん
    な事を言ったのだろうか?と思った。あの日、
    母は、ただ、私を慰めようとして、小鳥はいつ
    か戻って来ると、嘘(うそ)を言ったのだろう
    か?それとも、あの鳥は、今に、母の言葉通り、
    本当に、私のもとに戻って来るのだろうか?
     私は、春の空を見上げながら、あの小鳥が、
    戻って来る様な予感を感じた。

                         (続く)

鳥(1)

                     鳥


                     1


     或る日、私は、夢を見た。それは、遠い昔、私が子供
    だった頃の記憶の夢である。
     或る晴れた日の朝、私は、窓の開いた部屋で、飼って
    居た鳥を籠(かご)から出した。子供だった私は、その白
    い文鳥が、飛び去るとは思わず籠から出し、手にのせて
    可愛がったのである。
     だが、その白い鳥は、私の手から飛び立った。そして、
    その開けられた窓から、春の青空へと、飛び去ったので
    あった。
     子供だった私は、小鳥が青空へ飛び去ったので、泣い
    た。その私を、母は慰め、小鳥は、いつか、戻って来るか
    ら、と私に言った。

     その日の出来事を、私は、夢に見たのだった。目が覚
    めた時、私は、何故、自分が、その遠い日の出来事を夢
    に見たのか、と不思議に思った。

                                 (続く)

はじめに

                は   じ  め   に

        このブログで発表される全ての小説に登場する
 
       「私」は、作者とは無関係です。又、全ての登場人物、

       出来事は、架空のものであり、実在する人物、出来

       事とは、全く関係が有りません。


       作品の著作権は、作者である私(西岡昌紀)に属しま

       す。批評の目的での引用は自由ですが、批評の目的

       を超える作品の一部、又は全体の無断引用、無断転

       用、無断転載、等の行為は、理由を問はず、固く禁じ

       ます。

       平成19年2月8日(水)

          西岡昌紀(にしおかまさのり)

その他のカテゴリー